適切な「労働時間」の管理が企業を救う? 労働時間の考え方について今一度チェックしましょう!
<ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口善広/PSR会員>
昨年8月、東京の公共交通機関が労働基準監督署から是正勧告を受け、これまで休憩時間や睡眠時間とされていたものが労働時間であると判断され、割増賃金の支払等の措置を行うよう指導を受けました。
その金額は約86億円となる見通しで、膨大な金額となりました。
労働時間についての考え方は企業それぞれではあるものの、近年の裁判例を見るとかなりシビアになってきていると言えます。
また、労基署の是正勧告や裁判で企業の考え方が否定された場合、膨大な賃金支払リスクが発生することになります。
企業がそういったリスクから守るためには、今一度「労働時間」についての考え方をチェックする必要がありそうです。
「労働時間」とはどのような状態を言うのか
労働基準法における「労働時間」とは、行政の通達によると一般的に会社側の指揮命令下にある状態を言います。
これは必ずしも現実に仕事をしているかどうかは関係なく、例えば手待ち時間も労働時間であるとされます。
例えばトラックの運転手が交代で運転をする場合において運転をしない者が助手席で休んだり仮眠をしている時であってもそれは労働時間になります。
また、お昼の休憩時間に電話当番などをさせる場合、実際に電話がかかって来なくても待機している時間は労働時間になります。
会社側の指揮命令下についてもう少し深く踏み込みますが、使用者の指揮命令下にあるかどうかは上司からの指示など明示的なものである必要はなく、社風として暗黙の了解のもとに行われている場合も含まれる可能性があります。
では、冒頭で述べた休憩時間・睡眠時間と労働時間はどのように違うのでしょうか。
休憩時間と労働時間の境界はどこにある?
休憩時間は、会社側の指揮命令下になく、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間のことを言います。
言い替えると、就業規則などで規定している時間が休憩時間になるわけではなく、実態として業務から離れることを保障されているかがポイントとなります。
今回の労働基準監督署の是正勧告では、会社が休憩時間としていた時間中に、突発的な業務が発生し、社員が対応をしていたとのことです。
会社側は、その都度手当を支給していたとのことでしたが、対応頻度が多くなったため、業務に対応していた時間だけではなく、休憩時間や睡眠時間の多くが労働時間として取り扱うよう指導を受けたとのことです。
つまり、休憩時間や睡眠時間とされていた時間が、労働から離れることは保障されている時間とはならない、と判断されたと言うことになり、手待ち時間として労働時間と判断されてしまったと解釈することもできます。
このように、会社が労働時間として認めていなかった時間について、是正勧告等で労働時間と判断されてしまうと、労働時間には賃金が発生することになり、企業に支払義務が発生します。
さて、休憩時間・睡眠時間だけでなく、始業前の時間が労働時間に該当するかどうかが問題になることが考えられます。
つまり、従業員が始業前に出勤して仕事をしていた場合、会社側の指揮命令下にあったかどうかが判断されることになります。
たとえば、店舗のオープン時間を労働の始業時間としていて、店長からはオープンの30分前に出勤をするよう指示されているものの、タイムシート上の労働時間はオープンの時間となっているようなケースです。
業務終了後の残業については、労働時間の延長であるという意識があるため、労働時間の管理をしやすい面がある一方、始業時間前の時間管理が追いついていないことが多いようです。
また、制服への着替えの時間は労働時間なのではないか、ということで昨年末、賃金の支払を命じる判決も出ました。
これは、制服での通勤を禁じられていたこと、勤務中は制服を着ることが義務付けられていたことなどから、着替えも会社側の指揮命令下にあったと判断されたようです。
制服への着替えについては、本来の業務の準備行為にすぎないという判例もあり、すべての着替えに要する時間が労働時間に該当するとは言い切れませんが、従業員側も労働時間についての考え方について情報を得やすい環境にありますから、説明を求める声は今後増えることを想定して準備をしておくことは必要になるでしょう。
いかがでしょうか。労働時間の考え方について、会社側が再点検をすることで、賃金支払リスクを下げるだけではなく、従業員が納得して業務を遂行できる環境を整備することが安定した経営にもつながりますので、これを機に労働時間・休憩時間の管理についてチェックされてみてください。
プロフィール
ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/)
営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。