【専門家の知恵】LGBTへのセクハラ防止のために、いますぐできること

公開日:2019年6月12日

LGBTへのセクハラ防止のために、いますぐできること

<メンタルサポートろうむ 李 怜香/PSR会員>

 

 2017年1月に、厚生労働省の「セクハラ指針」に「LGBTへの差別はセクハラにあたる」と明記された。(※ LGBT=レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーをはじめとする、性的少数者の総称。)

 とは言え、「うちにはそういう人はいないから、関係ない」と思っている経営者・人事労務担当者も多いだろう。しかし、現実にはそう簡単に片付けてしまうわけにはいかない。今回は、LGBTへのセクハラ防止について、すぐできる対策について解説していきたい。

 

◆LGBTは「いない」のではなく「見えない」

 あなたの周りには、LGBTがいるだろうか。一説には人口の3%から5%、左利きの人と同じくらい存在するとも言われている。しかし、本人が打ち明けるまで周りは分からないことが多い。

 いままでLGBTと出会ったことがない、という人がいれば、周りにいないのではなく、いままであなたは打ち明ける対象に入っていなかった、という可能性が大きいだろう。

 たとえば、男性同士でいつも仲良く話していると「お前ら、ホモか」とからかったりする人がいる。また、「オカマ」、「オネエ」、「レズ」、「そっち系」という侮蔑的に使われてきた言葉を、何のためらいもなく、時にには面白がって口にする人がいる。周りにLGBTがいたとしても、このような人に打ち明けることはないので、その人にとって LGBTの存在は「見えない」も同然である。

 さらに別の角度から切り込むと、あなたは「恋愛や結婚は異性とするもの」という考えや、「男は◯◯、女は◯◯」などの性別による決めつけをしていないだろうか。LGBTについて、「気持ち悪い」「異常」などと、普段から発言していないだろうか。

 このような発言が、誰からもとがめられることなく語られている職場にいるLGBTは、カミングアウト(自分の性指向や性自認を公にすること)はおろか、「ここは私の居場所ではない」と感じて、仕事への意欲自体を失ってしまいかねない。

 なぜなら、こう考えてみるとよい。あなたが外国に住んでいたとして、常に「日本人はここにいない」という前提で話がされていたらどう感じるだろうか。そしてそこで日本人の悪口が大っぴらに語られていたり、小馬鹿にされていたらどうだろう。おそらく、その場にいたたまれないはずだ。

(上記の例を読んで、読者は日本人だと決めつけているのはおかしいではないか、と感じたあなたは正しい。実際そういうことだ。)

 自分がその場にいないこととして扱われる、これだけでも疎外感を感じるには十分だが、自分の属性を侮辱され、言った人だけでなく、他の人も同調して笑っている。こういうことが繰り返されると、心身に不調をきたしたり、退職に至ってしまうこともある。

 

◆常にLGBTが身近にいるという前提で話す

 この問題は、「本人が隠していて、いるかどうか分からないのだから、仕方ない」で済ませられない問題だ。

 そもそも、自身がLGBTであることを大っぴらに言えないのは、この社会に偏見や差別があるからだ。仮に、あなたの職場にLGBTが存在しなかったとしても、人権を侵害するような発言が「冗談だから」で見過ごされてよいということはない。では、どうしたらよいのだろうか。

 LGBTがあなたの職場にいるかどうか分からなくても、“いるという前提で”話をすればよい。

 からかったり、侮辱しない、というだけではなく、人間は多様なものであり、「恋愛や性の対象が異性である人ばかりではない」、「生まれた時の性別を当然だと受け止めている人ばかりではない」、と常に頭の隅に置いておくことだ。

 「男らしく」、「女らしく」という規範は、まだまだこの社会に根強い。あなたがそのような信念をもつことは自由だが、職場では男女の役割や外見等を決めつけるような話題はふさわしくないと考えておこう。いるかもしれないLGBTが傷つくというだけでない。伝統的な性別の役割にこだわることは、性差別に結びつきやすく、セクハラの温床になるからだ。

 また、職場の誰かがLGBTを笑いものにしているような時に、すぐにその場で、そのような発言は適切ではない、と意思表示することも大切だ。

 「そういう言葉を使うと傷つく人がいるので、やめておきましょうよ。私も聞いていて、いい気持ちがしません」と言える人が職場に1人でもいるだけで、生きる勇気を得る人だっているかも知れない。

 世の中には偏見に凝り固まり、差別することにためらいを感じない人が一定数いる。残念ながら、そのこと自体はどうしようもない。

 しかし、偏見・差別に対して、その場にいる人全員が、当然のように受け止めたり、同調して笑うことは、防ぐことができる。

 LGBTへのセクハラ防止を考える時に、まずできることは、このような“視点”を身につけることである。

 

プロフィール

社会保険労務士、産業カウンセラー、セクハラ・パワハラ防止コンサルタント 李 怜香
メンタルサポートろうむ(http://yhlee.org)代表
岐阜県生まれ。早稲田大学卒業。職場のコミュニケーション、メンタルヘルス、ハラスメント防止について、ご相談、研修を承ります。15年以上の経験で、法律と心理、双方から中小企業をサポートしています。

 

 

 

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