【組織リーダーの若手社員育成術】第2回 「仕事の意義」の伝え方

公開日:2024年1月26日

【組織リーダーの若手社員育成術】

第2回 「仕事の意義」の伝え方


<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員>

「仕事とは何か」。この命題について組織リーダーが若手社員をどのように教育するかは、極めて重要な問題である。教育内容次第で優秀な社員育成が可能になることもあれば、若手社員の早期離職を誘発してしまうケースもあるからである。そこで今回は、リーダーが若手社員に仕事の意義を指導する際のポイントを考えてみよう。

 

仕事とは「生活の糧を稼ぐこと」では人材は定着しない

「仕事とは何か」。組織リーダーである皆さんは、このような問いに向き合ったことがあるだろうか。また、若手社員に「仕事とは何か」「働くとはどのような意味を持つ行為なのか」を教育しているだろうか。

初めに、「仕事とは生活の糧を稼ぐ行為である」と教育した場合に、若手社員の働く意欲にどのような影響を及ぼすかを考えてみよう。

働く意欲を喚起する要因を動機付けと言う。動機付けには、外発的動機付けと内発的動機付けの2種類がある。

外発的動機付けとは外部から与えられる動機付けであり、「高い給料がもらえる」「昇進できる」などが該当する。これに対し、内発的動機付けは自分の心の中から湧き出てくる動機付けで、「仕事でお客様に喜んでもらいたい」「仕事で皆の役に立ちたい」と考えることなどが当てはまる。

「仕事とは生活の糧を稼ぐ行為である」とする教育は、社員の外発的動機付けにアプローチをする手法である。仕事の意義を「生活のため」と定義することにより、社員の働く意欲を一定程度、喚起する効果が期待できると言えよう。

しかしながら、ヒトはより大きな外発的動機付けに魅力を感じる傾向にある。つまり、「働くことは、給料をもらうこと」と教育された若手社員は、より多くの給料をもらえる企業に魅力を感じるようになる。その結果、自社よりも処遇に勝る他社に人材が流出しかねないのが、この教育のデメリットである。

また、仕事の意義を「生活のため」と指導すると、給料などの金銭的インセンティブに変化がない場合には、不満を感じる人材が発生しやすくなる。そのため、給料を増額しないと動機付け効果が維持困難になりやすいという問題も抱えている。

結果として、若手社員に前向きな気持ちで仕事に全力を尽くさせるには、必ずしも効果的とは言えないのが、仕事の意義を「生活のため」とする教育である。

 

仕事とは「売上を増やすこと」では社員は動かない

それでは、「仕事とは売上を増やす行為である」と教育した場合には、どのような現象が起こるだろうか。これは、仕事の意義を「組織のため」と定義する方法である。確かに、売上や利益の増加は、企業の持続的成長・発展に必要な経営課題の一つではある。

しかしながら、このような教育によって働く意欲を強く喚起される若手社員は、残念ながら非常に少ないと言わざるを得ない。仕事の意義が「組織のため」と定義されている場合には、企業と社員との間に特別な利害関係が存在しない限り、外発的・内発的のいずれの動機付けにもなりにくいからである。

それどころか、若手社員が何らかの理由で自身の仕事に疑問を抱いた場合には、「自分は会社に都合よく利用されている」などのマイナス感情を社員に醸成しかねないのが、この教育のデメリットである。

労働契約上、社員には誠実に業務に精励しなければならない義務が課されている。しかしながら、「働くことは、売上を増やすこと」とする教育では、前向きな気持ちで仕事に全力を尽くす若手人材の育成は非常に困難といえる。

 

「仕事の社会的意義」の浸透で若年社員の定着率向上を

若手社員に前向きな気持ちで仕事に全力を尽くさせるには、「仕事とは人の役に立つ行為である」という趣旨の教育を行うことが、非常に有効である。

例えば、医療機関であれば「仕事とは一人でも多くの人命を救う行為である」、飲食業であれば「仕事とは食で笑顔を増やす行為である」、建築業であれば「仕事とは家族の憩いの場を提供する行為である」などである。

つまり、企業における仕事の本質は「社会に貢献すること」であり、給料は企業活動を通じて実施した社会貢献の対価であるとする考え方である。

この教育は、「仕事でお客様に喜んでもらいたい」などの感情を社員に醸成することに繋がるものであり、内発的動機付けにアプローチする手法である。そのため、社員の働く意欲を喚起する効果が期待できると言える。

ただし、「働くことは、社会に貢献すること」と1度や2度、社員に伝えただけで、高い動機付け効果が発揮されるわけではない。リーダーが日常業務の中で繰り返し「当社は社会にどのような価値を提供していくのか」を社員に訴え続け、自社の社会的意義に基づく意思決定を繰り返すことにより、少しずつ社員の内発的動機付けの効果が上がるのである。

離職率の高い企業は、「仕事の社会的意義が定義されていない」「社会的意義は定義されているが、実際の企業運営に反映されていない」などが顕著である。社員の早期離職に悩むのであれば、ぜひ内発的動機付けを喚起できるような社会的意義の構築と運用を目指してほしい。

 

プロフィール

コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀 信敬

(組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士)

コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表

中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。

 

 

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