【専門家の知恵】“新様式”による算定手続きはなぜ難しい?

公開日:2018年8月30日

“新様式”による算定手続きはなぜ難しい?

<コンサルティングハウス プライオ 大須賀 信敬/PSR会員>

 

 7月2日から7月10日は『算定基礎届』の法定提出期間であった。今年度は算定手続き関係の届書が新様式に変更された初年度に当たるため、各企業の社会保険事務に混乱が生じていたようである。

 

記載方法が分からない新しい『算定基礎届』の備考欄

 給与から天引きする厚生年金や健康保険の保険料は、標準報酬月額を基に計算される。この標準報酬月額を年に一度、見直す作業を定時決定といい、その際に提出が義務付けられているのが『算定基礎届』という届書である。

 従来、『算定基礎届』は「被保険者用」と「70歳以上被用者用」の2種類の異なる届書を別々に作成する必要があった。ところが、今年度からは両者が統合され、同じ届書に「被保険者」と「70歳以上被用者」の両方の情報を記載できる兼用の様式に変更されている。

 また、従来であれば『算定基礎届』とともに『総括表』『附表』という2種類の届書も合わせて提出が求められたが、本年度から『附表』の記載内容が『総括表』に移行され、『附表』自体は廃止された。そのため、今年度に提出する算定関係書類は『算定基礎届』と『総括表』の2種類のみとなり、例年よりも提出する届書の種類が削減されている。

 提出書類が減ったということは、企業側の算定事務も削減されそうに思えるのだが、残念ながら現在、さまざまな混乱が生じているようである。代表的な混乱は「新しい届書は記載方法が分かりづらい」というものである。

 たとえば、新様式の『算定基礎届』の備考欄には、新しく「1.70歳以上被用者算定(算定基礎月: 月 月)」という項目が設けられている。これは「被保険者用」と「70歳以上被用者用」の2種類の『算定基礎届』を統合したために設けられた欄である。この欄の記載方法の説明書きには「算定期間中に70歳に到達したこと等により、健康保険と厚生年金保険の算定基礎月が異なる場合のみ、70歳以上被用者分の算定基礎月を( )内にご記入ください」と書かれている。

 しかしながら、多くの社会保険事務担当者がこの文章の意味を理解できず、困惑しているようである。また、文章の意味は分かるが、具体的にどのように記載すればよいかが分からないという企業関係者も非常に多い。

 

「70歳以上被用者」の記載に困る新しい『総括表』

 また、『総括表』では「70歳以上被用者」に関する事項をどの欄にどのように記載すればよいかが分からないという問題が生じている。「70歳以上被用者」のことも記載した『算定基礎届』を総括するための『総括表』であるにもかかわらず、どこにも「70歳以上被用者」という用語が出てこないからである。

 実は、昨年度までは「70歳以上被用者用」の『算定基礎届』には『総括表』という届書が存在しなかった。そのため、新しい『総括表』に「70歳以上被用者」という用語が出てこない点について、保険者なりの理屈があるものと思われる。

 しかしながら、『算定基礎届』を「被保険者用」と「70歳以上被用者用」の兼用フォームに変更したことにより、新しいフォームでは企業側から見た『算定基礎届』に対する『総括表』の位置付けが以前とは異なっている。それにもかかわらずこの点に関する配慮が十分ではなく、記載する企業側が記載方法を理解できない新様式では本末転倒であろう。

 上記のいずれの問題についても、筆者としては正しい記載方法を承知しているが、各企業に対する保険者側の説明が全国的に統一されていないことが懸念されるため、本稿での正しい記載方法の紹介は差し控えることとする。企業の社会保険事務担当の皆さんは、事前に管轄の年金事務所によく確認することを強くお勧めする。

 ところで、なぜこのような算定事務に関するトラブルが発生しているのだろうか。大きな原因の一つが、日本年金機構の顧客視点の脆弱性にあると感じている関係者は少なくないであろう。様式変更初年度のため、日本年金機構としても想定外のトラブルが発生しているのかもしれないが、よりカスタマーファーストに重心を置く業務改革を望んでやまないものである。

 

プロフィール

マネジメントコンサルタント、中小企業診断士、特定社会保険労務士 大須賀 信敬
コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表
「ヒトにかかわる法律上・法律外の問題解決」をテーマに、さまざまな組織の「人的資源管理コンサルティング」に携わっています。「年金分野」に強く、年金制度運営団体等で数多くの年金研修を担当しています。

 

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