【経営人事改革の視点】ビジネスでも人間関係でも共感性が欠かせない
<株式会社ビジネスリンク 代表取締役 西川幸孝>
行動の起点としての共感性
人間の重要な心理作用として、「心の理論」と「共感性」があります。
心の理論は、相手の思考・意図・知識・感情などを推し量る認知能力のことです。心の理論によって、人間は歴史的に他者の意図や知識を見立て、役割分担を効果的に行ってきました。
共感性は、相手の感情を感じ取り自分の中で共鳴させる力です。人間は共感性によって集団内の絆を強め、協力行動を促してきました。これらの能力があったからこそ、ヒトは集団を形成して生き抜くことができたのです。なお、心の理論を持つ一方で共感性が著しく乏しい人はサイコパスと呼ばれています。
こうした心の理論、共感性といった生得的な能力は現代人にも受け継がれています。
もし心の理論と共感性がなければ、企業活動を進めることすら難しくなります。競合他社や顧客の考えや気持ちを心の理論で理解することは不可欠ですし、共感性にもとづく営業や顧客対応も欠かせません。つまり、集団形成だけでなく、現代の事業活動においても両者は重要な基盤なのです。
人間の行動の起点は「心の動き(情動)」です。情動の主要な要素の一つが共感性です。
店舗で顧客が商品を手に取って購入に至るのは、その商品に何らかの共感を覚えるからで、飲食店や小売店で接客に満足し再訪したくなるのも、そのサービスに共感できるからです。
共感性はリーダーシップにも深く関わります。リーダーがメンバーの感情を理解し、共感できると、両者の距離は一気に縮まります。リーダーの重要な役割はメンバーの適切な行動を導くことですが、行動を生む原動力は多くの場合情動であり、その背景には共感が存在します。
共感性を欠いたリーダーは力による支配に傾きやすく、心理的安全性が損なわれると、組織は警戒心に覆われメンバーは心を閉ざしがちになります。すると共感が生まれにくくなり、たとえ芽生えても協力やコミュニケーションを図るといった行動に踏み出しづらくなります。
リーダーは、不公平さや理不尽さ、他者の痛みを感じ取れる共感性を備えてこそ、組織の倫理を保ち、指導力を発揮できます。
「ロールモデル」の影響も共感性が元になります。
女性で家庭を持ちながら活躍する人、営業で颯爽として抜群の成績をあげる人など、さまざまなロールモデルが影響力を持つのも、土台に共感性があるからです。多様性の受け入れも、共感性なしには前進しません。
企業はメンバーの共感性が自然に働く状態をつくることが得策です。そのためには、まず心理的安全性を確保し、活発なコミュニケーションを促し、メンバー同士がお互いをよく知ることが重要です。また、顧客に接するときにも、社員と接するときにも、立場ではなく人間対人間として向き合うことが重要です。
ストーリーの持つ力
プロフィール
西川幸孝
株式会社ビジネスリンク 代表取締役
経営人事コンサルタント 中小企業診断士 特定社会保険労務士
愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、商工会議所にて経営指導員、第3セクターの設立運営など担当。2000年経営コンサルタントとして独立。2005年株式会社ビジネスリンク設立、代表取締役。2009年~2018年中京大学大学院ビジネス・イノベーション研究科客員教授。「人」の観点から経営を見直し、「経営」視点から人事を考える経営人事コンサルティングに取り組んでいる。上場企業等の社外取締役も務める。日本行動分析学会会員