【専門家の知恵】給与計算業務の見える化とその方法 ~マニュアルは情報と作業手順を分けるのがポイント~

公開日:2023年12月15日

<社会保険労務士事務所Bricks&UK 代表 四宮寛子/PSR会員>

人事労務担当者にとって頭の痛い問題の1つに「給与計算業務の属人化」があります。

給与の内容は秘密情報のため、多くの会社では限られた人のみが対応し、属人化が起きやすい状態です。担当者の急な退職や休職で困った経験がある会社も多いのではないでしょうか。この記事では、給与計算業務の属人化を防ぐ可視化とその方法について解説します。

 

なぜ給与計算業務は属人化するのか

給与計算業務が属人化する最大の原因は、給与が会社の秘密情報であることでしょう。給与計算を行えば当然その情報を知ることになるため、限られた社員のみが業務にあたるのが一般的です。

給与計算のルールが会社によって多種多様であることも原因の1つです。複数の業種がある、従業員ごとに労働条件が異なるなどして、細かな計算ルールが数多く存在する会社もあります。

また、中小企業では社長の一声で給与計算のルールが変更となることもあり、マニュアルに落とし込みにくい等の理由から特定の担当者の頭の中にだけ保存されてしまうのです。

 

属人化の回避には給与計算業務の見える化が不可欠

給与計算業務が属人化していると、担当者が急に不在となったとき等に問題が起こります。給料日に間に合うよう、代わりの社員が過去の資料を見ながら手探りで給与計算をするのはかなり大変です。

このような状況を防ぐには、あらかじめ給与計算業務を可視化しておく必要があります。マニュアルを作成して誰にでもわかるようにしておくと同時に、給与計算のルールをできるだけシンプルにしておくことも重要となるでしょう。

次の章では、勤怠管理システムと給与管理システムを使用している会社を例に、マニュアル作成のポイントを説明します。

 

マニュアル作成のポイントは情報と作業手順を分けること

給与計算業務のマニュアル作成でポイントとなるのが、情報と作業手順を分けて記載することです。膨大な情報やルールを1つ1つ書き出してまとめるのは大変なうえ、正しい順番で記載しなければ計算ミスにつながってしまいます。そのため、次のように分けてまとめていきましょう。

① 給与計算に必要な情報(マニュアル:情報編)

給与計算は、情報がすべて揃っていないと必ず間違いが起こります。まずは計算に必要な情報を整理し、もれなく書き出してください。ここでは従業員数が約20名のシステム開発会社を例に、必要な情報を紹介します。

・入退社や休職者の情報
・昇給や手当変更の情報
・勤怠管理システムから出力した勤怠一覧表
・立替経費一覧表(給与で精算する立替経費が記載されたもの)
・日割計算に関する資料
・住民税に関する情報(市区町村から送付された決定通知書)
・社会保険料(健康保険組合や年金機構から送付された決定通知書)に関する情報
・事前確定届出給与(役員の賞与)に関する資料(毎年7月のみ)

必要な情報を書き出したら、個別にその情報の詳細をマニュアルに記載します。例えば、上記の「勤怠管理システムから出力した勤怠一覧表」であれば、見本(ある月の実際の勤怠一覧表)、資料名(データの場合はファイル名とExcel、PDF等の形式)、保存先、その資料の目的、資料を使用する工程をマニュアルに記載しておきます。

② 作業手順の内容(マニュアル:作業手順編)

次に、給与計算の作業手順を下記の順番で具体的に記載します(ここでは給与計算後の振込や明細書発行については割愛)。

1)給与計算に必要な情報がすべて揃っているかの確認
2)給与計算を始める前に行う給与管理システムの操作
3)勤怠・その他データの集計
4)社員マスタ(固定項目関連)の設定
5)勤怠・支給控除等(変動項目関連)の給与システム反映
6)計算後のチェック

1)給与計算に必要な情報がすべて揃っているかの確認

給与計算の前に、必要な情報(資料)がすべて揃っているかをチェックします。マニュアルに必要な情報(資料名)を箇条書きでもれなく記載し、それをチェックリストとして活用できるようにしておくとよいでしょう。例えば、先に紹介したシステム開発会社であれば、次のようなチェックリストになります。

☑入退社や休職者の情報
☑昇給や手当変更の情報
☑勤怠管理システムから出力した勤怠一覧表…「マニュアル:情報編」を参照
☑立替経費一覧表(給与で精算する立替経費が記載されたもの)…「マニュアル:情報編」を参照
☑日割計算に関する資料…「マニュアル:情報編」を参照
☑住民税に関する情報(市区町村から送付された決定通知書)
☑社会保険料(健康保険組合や年金機構から送付された決定通知書)に関する情報
☑事前確定届出給与(役員の賞与)に関する資料(毎年7月のみ)…「マニュアル:情報編」を参照

毎月入退社がないという会社もあるでしょう。その場合でもチェック項目は残しておき、該当者がいないことを確認するようにします。
「マニュアル:作業手順編」に記載された資料名だけでは内容が伝わらない場合は、「マニュアル:情報編」を参照して内容を確認する旨を記載します。

2)給与計算を始める前に行う給与管理システムの操作

給与計算を始める前にすべきことがある場合は、それもマニュアルに記載してください。使用する給与管理システムによっては、給与計算の前に社会保険対象者のチェックや年次有給休暇の付与/繰越の設定が必要なケースがあります。

3)勤怠・その他データの集計

勤怠データ等の集計の手順を記載します。勤怠管理システムにログインして勤怠締めを行う手順、データ出力が必要なら出力の手順も詳しく記載しましょう。出力したデータをインポート用に加工する必要のある場合は、その手順も書いておきます。

4)社員マスタ(固定項目関連)の設定

生年月日や給与単価、振込口座等の社員マスタ情報を給与管理システムに設定する手順を記載します。給与管理システム付属のマニュアルを代用してもよいでしょう。

5)勤怠・支給控除等(変動項目関連)の給与システム反映

勤怠データ等をインポートする必要がある場合は、インポートに使用する資料と給与管理システムの操作手順を記載します。手入力が必要な手当等がある場合は、参照する資料と入力箇所を明記します。

6)計算後のチェック

給与計算後に行うチェックの手順を記載します。1)~5)の工程に沿ったチェックリストを作成しておくとよいでしょう。

給与計算には労働時間の集計方法や社会保険・税金等の知識が必要であり、誰もができる業務ではありません。しかしマニュアル等で業務を可視化すれば、いざという時に代わりの人材を調達するにも、また、アウトソーシングに移行するにもスムーズになるでしょう。

 

プロフィール

四宮寛子 

特定社会保険労務士/医療労務コンサルタント

社会保険労務士事務所Bricks&UK(https://bricksuk-sr.biz/)代表 

 

大学卒業後、大手銀行関連会社にて給与計算、労働・社会保険手続きを担当。2006年社会保険労務士試験合格、翌年開業。中小企業の経営者に寄り添った労務顧問サービスを展開、助成金の申請にも力を入れている。近年は社労士業務の製販分離にも着手し、手続き業務や給与計算業務の生産管理システムを導入。業務の可視化を行い、誰でも業務に当たれるようにしている。著書に新日本法規「新しい働き方対応 会社経営の法務・労務・税務」共同執筆(2022年)がある。

 

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