【専門家の知恵】【社長の年金】第11回 万が一の時、社長は家族にどんな年金を残せるのか<個人オーナー編>

公開日:2021年8月17日

【社長の年金】第11回 万が一の時、社長は家族にどんな年金を残せるのか<個人オーナー編>

<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀 信敬/PSR会員>

 「私に万一のことがあったら、家族は生活をしていけるだろうか」と考える社長は、少なくないであろう。

 もしも、社長に万一のことがあり、不幸にも他界してしまった場合、残された遺族は国の年金制度からどのような支援を受けられるのだろうか。

 今回は、男性の個人オーナーが他界したケースを例に、残された妻がどのような年金をもらえるのかを考えてみよう。

 

◆子供のいない個人オーナーは妻に遺族年金を1円も残せない

 職場を法人化していない個人オーナーの場合、加入する公的年金制度は国民年金だけである。そのような個人オーナーが他界すると、残された配偶者に対して国民年金から遺族基礎年金という名称の年金が支払われることになる。

 ただし、遺族基礎年金には極めて大きな注意点がある。子供がいないと1円も支払われないのである。具体的には、個人オーナーである夫が他界し、その妻に「高校を卒業する年齢になる前の子供」(正確には、「18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子」という)がいない場合には、全く支払い対象にならないのが、遺族基礎年金の最大の特徴である。

 そのため、次のようなケースで個人オーナーである夫が他界した場合、残された妻に対する遺族基礎年金は全く支払われることがない。

・結婚をして間がないため、まだ子供をもうけていなかった。
・子供を欲しかったが、残念ながら子宝に恵まれなかった。
・すでに子供は成人している。 

 また、遺族基礎年金は「高校を卒業する年齢になる前の子供」がいることが支払条件なので、例えば、高校3年生の子供を持つ個人オーナーが他界した場合には、残された妻に遺族基礎年金は支払われるものの、1年も経たずに支払いが終了してしまうことになる。

 「自分に万一のことがあれば、国から妻に遺族年金が支払われるから大丈夫!」という考えは、必ずしも当てはまるとは言えないので、注意が必要である。

 

◆個人オーナーに「保険料の納め不足」があると、遺族年金が支払われないことも

 個人オーナーである夫が他界した場合に、残された妻が遺族基礎年金を受け取るためにはもう一つ条件がある。個人オーナーである夫が、生前に一定以上、国民年金の保険料を納めていることである。

 具体的には、個人オーナーである夫が、次のいずれかの条件を満たすことが原則とされている。

 ①生前に国民年金保険料を3分の2以上納めていること。
 ②他界する直前の1年間について、国民年金保険料を全て納めていること。

 例えば、国民年金に30年間加入した個人オーナーが他界した場合には、30年の3分の2に当たる20年間、国民年金保険料を納めていれば、①の条件をクリアすることになる。

 それでは、もしもこの個人オーナーの保険料を納めた期間が、15年しかない場合はどうだろうか。30年のうち15年しか納めていないのであれば、①の「生前に国民年金保険料を3分の2以上納めていること」という条件を満たせない。

 しかしながら、このような場合でも、仮に他界する直前の1年間は、国民年金保険料を漏れなく納めているのであれば、②の条件をクリアできる。その結果、残された妻に遺族基礎年金が支払われることになるものである。

 以上のように、遺族基礎年金は「必ずしも保険料を全部納めていなくても支払われる」という特徴も持ち合わせている。

  

◆遺族基礎年金は年額1,005,600円(子供が1人の場合)

 遺族基礎年金の金額は、国民年金の加入実績の長短にかかわらず一定額である。つまり、個人オーナーである夫の国民年金の加入期間が長くても短くても、支払われる遺族基礎年金の額に変わりはない。

 具体的な遺族基礎年金の額は、「高校を卒業する年齢になる前の子供」(18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子供)が何人いるかによって異なり、次のとおりである。

  対象となる子供が…

 ・1人の場合:年額1,005,600円(月額83,800円)
 ・2人の場合:年額1,230,300円(月額102,525円)
 ・3人の場合:年額1,305,200円(月額108,766円)


 例えば、遺族基礎年金の対象となる子供が1人の場合には、1年間で1,005,600円が支払われる。月額にすると83,800円である。この金額を見て、皆さんはどのような印象を持つだろうか。「随分少ない」「金額的に意味がない」などと感じる方が多いかもしれない。

 それでは、具体例で考えてみよう。例えば、1人目の子供が生まれたばかりの時点で、個人オーナーである夫が不幸にも他界したとする。この個人オーナーは生前、国民年金保険料を漏れなく納めていたとしよう。

 この場合、残された妻は、子供が「高校を卒業する年齢」になるまでの約18年間、遺族基礎年金を受け取り続けることになる。支払われる遺族基礎年金の総額は、現在の年金額を基準に概算すると、18年間で約1,800万円(≒1,005,600円×18年)になる。

 夫を失い、シングルマザーとしての人生を余儀なくされた女性にとり、別途の金銭的負担等を負うことなく1,800万円もの金銭を入手することは、通常は不可能である。その意味では、確実に1,800万円の遺族年金を受け取れるという状況は、経済面・精神面で少なからずこの女性の支えになりはしないだろうか。このような視点で遺族基礎年金を見ると、一概に「随分少ない」「金額的に意味がない」とは言えないかもしれない。

 次回は、法人化された職場を率いる代表取締役について、他界した場合の遺族年金の仕組みを見てみよう。

 

プロフィール

マネジメントコンサルタント、中小企業診断士、特定社会保険労務士 大須賀 信敬
コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表
「ヒトにかかわる法律上・法律外の問題解決」をテーマに、さまざまな組織の「人的資源管理コンサルティング」に携わっています。「年金分野」に強く、年金制度運営団体等で数多くの年金研修を担当しています。

 

 

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