【専門家の知恵】新型コロナウイルス蔓延にともなう休業および「休業手当」の支払い義務

公開日:2020年3月30日

新型コロナウイルス蔓延にともなう休業および「休業手当」の支払い義務

<コンサルティングハウス プライオ 大須賀 信敬/PSR会員>

 

 現在、新型コロナウイルスがわが国の経済活動に多大な影響を及ぼしており、従業員を休ませる企業も出始めている。ところで、このウイルスの影響で企業が従業員を休ませることになった場合、企業側は従業員に対して「休業手当」を支払う必要があるのだろうか。

 

「休業手当」の支払いに関する厚生労働省の見解

 2020年2月から拡大しはじめた新型コロナウイルス。企業活動への影響も懸念されており、東京商工リサーチの調査によると、「すでに影響が出ている」または「今後影響が出る可能性がある」と回答した企業は、実に 94.6%に上る、とのことである(第2回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査)。

 それでは、今回の新型コロナウイルスに関連して従業員を休ませた場合、企業の賃金支払い義務については、具体的にはどのように考えればよいのだろうか。

「労働基準法」には、「使用者の責に帰すべき事由により休業した場合には、休業手当として平均賃金の60%分以上を支払わなければならない」という定めがあるが、今回の新型コロナウイルスの影響による休業手当の支払いについては、厚生労働省が「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年3月19日時点版」を発表している。ポイントを整理すると、次のとおりである。

1.感染した従業員を休ませた場合

 従業員が新型コロナウイルスに感染し、都道府県知事が行う就業制限によって仕事を休む場合には、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しないと考えられる。したがって、このウイルスに感染した従業員を休ませた場合、企業側が休業手当を支払う法律上の義務はないことになる。

2.感染が“疑われる”従業員を企業が休ませる場合

 新型コロナウイルスへの感染が“疑われる”段階の従業員に対して、働くことが可能であるにもかかわらず、「会社側の判断で仕事を休ませる」ということも考えられる。この場合には、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまることになる。したがって、企業側から当該従業員に対して、休業手当の支払いが必要になる。

3.発熱などの症状がある従業員を休ませた場合

 企業が「熱のある従業員は、企業側の判断で、一律、仕事を休ませる」といった対応を取ることも考えられる。この場合、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまることになる。したがって、企業側から当該従業員に対し休業手当の支払いが必要になる。

4.発熱などの症状がある従業員が“自ら”休んだ場合

 新型コロナウイルスに感染しているかどうかはわからない時点で、熱のある従業員が“自らの意思”で仕事を休んだ場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」には当たらない。そのため、企業側が当該従業員に対し、休業手当を支払う法律上の義務はないことになる。そして、このような従業員に対しては、通常の病気欠勤と同じ扱いをすればよいことになる。

5.“事業の休止”により従業員を休ませた場合

 “事業の休止”によって従業員を休ませた場合、不可抗力による休業であれば「使用者の責に帰すべき事由による休業」には当たらず、企業側に休業手当の支払い義務はなくなる。ただし、ここでいう「不可抗力」とは、下記2点の要件を満たさなければならないと解されている。

(1)原因が事業の外部より発生した事故であること
(2)事業主が通常の経営者として最大の注意をつくしてもなお避けることのできない事故であること

 例えば、新型コロナウイルスの影響を受けて取引先が休業したことにより、事業を休止する場合には、「当該取引先への依存度」や「他の代替手段の可能性」、「事業休止からの期間」や「使用者としての休業回避のための具体的な努力」などを総合的に勘案し、不可抗力であるか否かを判断することになる。

 

「どうすれば従業員が安心して休業できるか」という視点での意思決定を

 今回の新型コロナウイルスにともなう企業側の対応としては、法律上、従業員への休業手当の支払いが必要なケースと不要なケースが存在する。そのため、「法律上の支払い義務がない金銭は払わない」、または「法律に定められた“最低限”の対応のみを行う」という企業が多いかもしれない。

 もちろん、先行き不透明な経済情勢の中で、財務上の制約から、こういった対応を取ることを否定しているのではない。しかしながら、中長期的な事業継続を勘案した場合には、「どうすれば従業員が安心して休業でき、気持ちよく職場復帰できるか」という視点にも気を配りたいものである。その結果、「あえて法律上の義務を上回る対応を行う」という選択肢もあるだろう。

 例えば、休業手当は平均賃金の60%分を支払えば、法律上の義務を果たしたことにはなる。しかし可能であれば、従業員に配慮して「あえて平均賃金の80%分、100%分の休業手当を支払う」といった対応も検討したいところである。

「法律上、問題のない対応」が「企業経営上、最良な選択肢」とは限らない。法律上だけでなく、「倫理上、どうすべきか」という視点での意思決定が重要なことも、忘れたくないものである。

【参考】
東京商工リサーチ:第2回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200312_01.html
厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

 

 

プロフィール

マネジメントコンサルタント、中小企業診断士、特定社会保険労務士 大須賀 信敬
コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表
「ヒトにかかわる法律上・法律外の問題解決」をテーマに、さまざまな組織の「人的資源管理コンサルティング」に携わっています。「年金分野」に強く、年金制度運営団体等で数多くの年金研修を担当しています。

 

 

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