2025年6月13日に年金制度に関する改正法が成立し、6月20日に公布されました。
企業に関わる改正の趣旨は、「働き方に中立的で、ライフスタイルの多様化等を踏まえた制度を構築するとともに、高齢期における生活の安定及び所得再分配機能の強化を図るための公的年金制度の見直し」です。
本稿では、2026年4月からの在職老齢年金の支給停止となる収入要件基準額の引き上げについて解説します。
在職老齢年金制度とは?
在職老齢年金制度は、老齢厚生年金を受給しながら働く方で、厚生年金の適用事業所に努めている一定額以上の報酬がある厚生年金の被保険者の方については、年金制度を支える側になるという考え方に基づき、老齢厚生年金の受給額を調整する仕組みのことです。
なお、平成19年4月以降に70歳に達した方が、70歳以降も厚生年金適用事業所に勤務されている場合は、厚生年金保険の被保険者ではなくても、在職による支給停止が行われます。
〈具体的な在職老齢年金額の計算方法〉
①総報酬月額相当額+基本月額≦支給停止調整額(2025年度は51万円)の場合
老齢厚生年金は全額支給される
②総報酬月額相当額+基本月額>支給停止調整額(2025年度は51万円)の場合
老齢厚生年金は、その月分として下記の額が減額される
(総報酬月額相当額+基本月額-支給停止調整額(2025年度は51万円))÷2
・基本月額とは
老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額
・総報酬月額相当額とは
(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
※上記の「標準報酬月額」、「標準賞与額」は、70歳以上の方の場合には、それぞれ「標準報酬月額に相当する額」、「標準賞与額に相当する額」となる
改正の背景と経緯
今回の改正は、企業と働く年金受給者の方の双方から検討されました。
・企業としての課題
人口減少に伴い労働力人口も減少しており、働き控えによる人手不足へ早期に対応する
人材確保や技術継承等の観点から高齢者に活躍してもらいたいニーズに対応する
・働く年金受給者の方の課題
物価上昇に対応する
働き続けたい高齢者のニーズの障害となっている在職老齢年金の停止基準額を見直す
上記の課題への対応のため、5年に1度の今回の年金制度の財政検証で、高年齢者が年金の支給停止を気にせずに働けるよう、2026年4月から在職老齢年金の支給停止基準額を50万円から62万円に引き上げられることになりました。
図:改正前後の在職老齢年金制度の仕組み
企業実務への影響は?
プロフィール
北條孝枝
株式会社ブレインコンサルティングオフィス 社会保険労務士
メンタルヘルス法務主任者 情報セキュリティマネジメント試験合格者
会計事務所で長年に渡り、給与計算・年末調整業務に従事。また、社会保険労務士として数多くの企業の労務管理に携わる。情報セキュリティについての造詣も深く、近年は実務担当者の目線で、企業のマイナンバー制度や個人情報保護法対応の社内整備や運用の最適化・業務効率化について取り組むとともに、実務に即したマイナンバーや改正個人情報、働き方改革などの企業対応に関する講演も多数行っている。