【連載】Z世代の特徴とメンタルヘルス
第1回 Z世代の働き方・キャリア観を読み解き、人材育成の軸をつくろう
<組織こうどう研究所 所長 産業カウンセラー 平澤知穂>
昨今、新人研修の在り方が少しずつ変化しています。
以前は「新人がまず学ぶべきこと」として、業務手順や会社のルールを伝える形式が主流でした。しかし最近では、新入社員一人ひとりの個性や価値観を尊重する姿勢が求められるようになっています。
特にZ世代においては、単に「教える」のではなく、対話や納得感を重視したアプローチを取ることで、研修効果がより高まると感じる場面が増えています。
こうした変化は、Z世代特有の特徴や価値観が、これまでの世代とは異なることを反映しているといえるでしょう。
自己表現を大切にし、納得感や共感を求めるZ世代の新入社員は、従来型の一方向を主とする指導では学びにくさを感じるのではないかと推察しています。
こうした傾向を踏まえ、彼らの特性を理解し、それに合わせた柔軟なアプローチを取ることが、今の時代の新人指導のポイントになっているようです。
このような背景から、「Z世代と呼ばれる年齢層の特色や、彼らの職場での働き方やキャリア観についてもっと詳しく知りたい」と感じている人事労務担当者・管理者・経営者の方も多いのではないでしょうか。
Z世代を理解し、適切に対応することで、彼らの持つポテンシャルを引き出し、職場全体を活性化させる鍵を手にすることができる可能性を、一緒に見ていきましょう。
Z世代とは
Z世代と呼ばれている、概ね1997年~2012年生まれは、多様性や自己実現を重視し、企業に対して公平性やウェルビーイングの提供を求める世代といわれています。また、幼少期からインターネットに親しみ、迅速な情報収集や効率的なコミュニケーションが得意です。
このような特徴が働き方やキャリア観に反映されており、職場環境のあり方にも影響を与えているようです。
また、「なぜそれをするのか」といった業務の意義を重視し、ワークライフバランスや自己成長を保ちながら働きたいと考えます。こうした価値観に応えるためには、目標や方向性を丁寧に共有し、OJTを活用して柔軟なサポートを提供することが重要です。
これらの特徴を踏まえ、Z世代への具体的な対応策をポイントごとに整理してみました。
Z世代の価値観からの職場行動の傾向
①自己実現への強い意欲
Z世代は、仕事を通じて自己実現を追求したいと考える世代のようです。ただ指示された業務をこなすのではなく、「なぜこれをするのか」という目的意識が共有されることで、主体的に取り組む行動が見られるようになります。たとえば、プロジェクトの意義やゴールが明確に説明されると、彼らの興味関心を引き出し、行動を継続するきっかけとなります。
②ウェルビーイングと働きやすさへの期待
株式会社ラフールの調査〜Z世代の71.6%が「ウェルビーイング経営を取り入れている会社で働きたい」と回答(※1)〜からもわかるように、働きやすい環境や従業員の健康を大切にする企業姿勢が、Z世代の価値観に合致しています。具体的には、リモートワークの導入や、柔軟な勤務体系の整備が、職場選びの重要な要素となっています。
③社会課題に高い関心を持つ
Z世代は環境問題や社会的責任(SR)にも敏感です。たとえば、エコ活動を推進する企業や多様性を尊重する取り組みを行う企業が、Z世代の就職先として選ばれるケースが多いです。これらの取り組みは、Z世代の行動を引き出すだけでなく、企業のブランド価値や採用力の向上にも寄与しています。
Z世代のキャリア観と職場行動の傾向
①意義ある仕事を求める傾向
Z世代は「仕事を通じて社会にどのように貢献しているか」を重視します。単調で意義を見いだせない業務に対しては、興味を失いやすい一方で、目的が明確で自己成長につながる業務には積極的に取り組みます。たとえば、リクルートワークス研究所の調査(2024年)(※2)によると、環境問題に取り組むプロジェクトに参加したZ世代の社員が、業務に対する満足感を大いに高めた例があります。
②柔軟な働き方を重視
リモートワークやフレックスタイム制は、Z世代にとって魅力的な要素です。特に、時間や場所に縛られない働き方が可能になると、Z世代は自身のライフスタイルと仕事を両立しやすくなります。これにより、彼らが職場での行動を継続しやすくなる効果が期待されます。
③結果よりプロセスの評価を求める
Z世代は、成果だけでなく、その過程での努力や工夫を評価されることを重視します。たとえば、「チャレンジした過程を評価される」ことで、次の行動を起こしやすくなります。このような評価体制は、Z世代の職場定着や行動力の向上につながります。
職場での具体的な対応策
①フィードバックの強化
Z世代は、「具体的」で「即時性」のあるフィードバックを求めます。たとえば、「ここが良かった」とポジティブなポイントを伝えたうえで、「次はこうするとさらに良くなる」と改善点を示すことで、より良い行動を促進することができます。
②透明性のあるコミュニケーション
業務の目的や意義を明確に伝えることが重要です。タスクを与える際には、全体像や背景を共有することで、Z世代の行動力を引き出すことが可能です。また、透明性を保つことで、信頼関係の構築にもつながります。
③多様性を尊重する文化づくり
職場内での多様性を尊重し、意見を出しやすい環境を作ることが求められます。たとえば、ミーティングでの意見を否定せず、肯定的に受け止める姿勢を示すことで、Z世代が安心して行動を起こせる雰囲気を作ることができます。
Z世代の特徴・価値観・キャリア観からのリーダーシップ
Z世代は、職場に新たな価値観をもたらし、組織全体の進化を促す可能性を持つ世代です。昨今の新人研修の現場に立っていても、彼らの特性を理解し、適切に対応することは、職場の生産性やチームワークの向上につながることを実感しています。
次回は、Z世代の特性を踏まえたOJTにおける労務担当者や管理者が留意すべきポイントをお伝えします。
※1 株式会社ラフール「Z世代のウェルビーイング」に対する意識調査(2022年)」
※2 リクルートワークス研究所「1829人独自調査 Z世代の仕事満足度、キャリア観(2024年04月26日)」
プロフィール
平澤知穂
組織こうどう研究所(https://0comb.com/) 所長 産業カウンセラー
組織開発系ファシリテーターとして企業内での教育事業に関与して23年目
産業心理の観点から、職場の心理的安全性を高める研修とコンサルティングを行う専門家
<経歴>
2000年8月 「職場の心理的安全性の向上」のための、影響言語を扱うリーダーシップ・影響言語によるチームワーク向上のトレーナーとして研修業務に携わる。
2007年〜2021年 大学講師(2大学)担当科目:ビジネスコミュニケーション/これからのリーダーシップ他
2016年 『オフィスコミュニケーショントレーニング』第一版2016,改訂版2018,ナカニシヤ出版(単著)
2023年 小冊子『社会人の価値を高めるビジネスマナーBOOK』執筆(発行:株式会社ブレインコンサルティングオフィス)
2024年 一般社団法人 日本ハラスメントリスク管理協会 特任講師