【専門家の知恵】法律理解だけに留まらない「ハラスメント防止研修」を企画する上でのポイントは?

公開日:2021年9月21日

<後藤和之 ごとう人事労務事務所/PSR会員>

 「ハラスメント防止研修」で大事なことの1つは、受講者が法律・指針等の理解を深めることです。しかし、法律理解から更にステップアップし、研修に少しの工夫を加えることで、受講者がハラスメントへの理解を深めるだけでなく、働きやすい職場環境をつくる当事者意識も深める場面にしていきましょう。

 

◆~ハラスメント防止研修で大切にしたいこと~「緊張感」と「前向き」のバランス~ 

 ハラスメントを防止する上で法律・指針等の理解は、緊張感を持って行うことが必要です。それは誰もが働きやすい環境をつくる上での必要なルールであり、そのルールを研修などで理解しなければなりません。

 そして、ハラスメントの理解を促進する内容の1つに、厚労省指針で「パワハラの行為類型」を示しています。精神的な攻撃・過少の要求などの6つの類型があり、その類型に応じた「該当すると考えられる例」「該当しないと考えられる例」が掲載されています。これらの例は、限定列挙ではなく、パワハラの内容を整理するための典型例であることを指針の中で明記しています。
 しかし、これに限ったことではないですが、法律を理解することだけに意識が集中する時ほど、独自の解釈に陥らないような注意が必要です。一体どういうことなのか。避けるべき2つの解釈例から説明します。

<避けるべき解釈①>自らの解釈でハラスメントの線引きをしてしまう
 特に厳しい指導を経験してきた方などが注意すべき解釈です。
 具体例として、6類型の中にある「精神的な攻撃・該当すると考えられる例」にある『他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う』で考えます。

 この例にある文言「大声」「威圧的」「繰り返し」などの要素を、「ここまでだったら大丈夫」と勝手に解釈してしまうことです。パワハラであるかどうかは、様々な要素により総合的に判断されるものです。どこまでが大声・威圧的という境界線があるものではないですし、繰り返さなければいいというものではありません。どこかで線引きがないと、厳しい指導ができないと考えてしまう場合に多い解釈だと思います。

<避けるべき解釈②>ハラスメントしないことに気を取られ、何もできない
 特に慎重に物事を判断する方などが注意すべき解釈です。
 具体例として、6類型の中にある「精神的な攻撃・該当しないと考えられる例」にある『その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする』で考えます。

 この例で「どこまでが重大なの?」「一定程度強くは、どれくらい?」と考えすぎてしまうことです。会社の規律が乱れるようなことは、指導しなければなりません。相手がどのように感じるか意識を高め、パワハラを避けようとすることは大切ですが、パワハラしないことに気を取られ指導しないことの方が問題です。

法律理解を通じて「これから何ができるか?」が大事
 「ハラスメントをしない」という緊張感を持つことはとても大事なことです。そのためには法律・指針等を理解することが必要です。しかし、上記のような避けるべき解釈をしないためには、「誰もが働きやすい環境をつくるために、これから何ができるか」という前向きな気持ちも併せて持つことで、より柔軟な考え方が促進されていきます。
 だからこそ研修企画の際には、法律等を理解するという緊張感を持つ場面だけに留まらず、前向きな気持ちをつくるための場面も考えていきましょう。

 

◆~柔軟な考え方を促進するために~「ハラスメント防止研修」を企画する3つのポイント 

研修のポイント① 気づかせよう!
 ハラスメントの大きなリスクの一つは「加害者がハラスメントをしたことに、気づかないこと」です。この「気づかせる」ことが大事です。その工夫として、例えば年代別・階層別研修の1コマで行うなどです。年齢を重ねた方が陥りやすいハラスメントの傾向を具体的に伝えやすくなりますし、若い人たちにも、上司に対してハラスメントをする場合(リモートハラスメントなど)があることも知ってもらいやすくなります。
また法改正や社会情勢などをふまえ、研修を実施することも一つです。育児休業などの法改正に併せて研修を開催すれば、どのような制度があるのか、なぜ育児休業が必要なのかを知ることで、ハラスメントをしてはいけない本質的な理由に気づくことができます。

研修のポイント② 考えさせよう!
 厚労省指針などは、当然ながら誰もが共有できる「ハラスメント防止策」が明記されています。一方で、働いている職場は、仕事の内容・職場の人数・従業員の年齢構成などそれぞれであり、それは唯一無二の場所です。そのように考えれば、厚労省指針だけでなく、その職場だからこそ当てはまる「ハラスメント防止策」が、更にあるはずです。研修の場を利用して、その職場に応じた防止策を考える機会をつくりましょう。
 例えば、グループワークなどで「ハラスメント防止指針」を作成するなどですが、「誰もが働きやすい環境にするためには?」などの柔らかいテーマで、より前向きな気持ちを醸成することも考えられます。

研修のポイント③ 実践させよう!
 年齢を重ねれば重ねるほど、研修などで覚えたことは、1日過ぎれば多くのことを忘れてしまいます。その上で大事なことは、目標を立てること、そしてそれをすぐに実践することです。
 例えば、ハラスメント防止につながる人事評価の項目があるだけでも、研修で学んだことを実践する意識がまったく違います。その他に身近なこととして、研修翌日に自らが立てた目標を、職場の中で発表するなどの場面づくりも大切です。

 最後となりますが、従業員だけでなく役員・経営者などにも、ぜひ研修に参加してもらいましょう。ハラスメントを会社一丸となって防止するという一体感が生まれ、会社の大きな魅力にもつながります。
会社の役員・経営者・従業員など誰もが、「ハラスメントしない」という緊張感を高め、働きやすい職場環境をつくる当事者意識を深めることがとても大切です。

【参考資料】

職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました︕~ ~ セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対応をお願いします ~ ~(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf) 

 

プロフィール

ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com
社会福祉士・社会保険労務士 後藤和之
昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの様々な業務に携わり、特に福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。現在は厚生労働省委託事業による中小企業の労務管理に関する相談・改善策提案などを中心に活動している。

 

 

 

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