HOME 専門家の知恵 就業規則・労務問題 【がん治療と仕事の両立支援~従業員ががんに罹患したら~】第1回 なぜ、がん治療と仕事なのか

がん治療と仕事の両立支援~従業員ががんに罹患したら~
第1回 なぜ、がん治療と仕事なのか

<近藤社会保険労務士事務所 近藤 明美/PSR会員>

 厚生労働省は、平成28年2月、「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(以下、「企業向けガイドライン」)」を公表しました。この企業向けガイドラインでは、がんなど疾病を抱える従業員が治療をしながら就労継続できるよう、望ましい就業上の措置や配慮などを示されました。
 企業向けガイドラインが出されたことで、がん治療と仕事の両立支援への関心が一層高まっています。

1.働く世代とがん

 がんとともに働く人々が増えています。平成26年2月、働きながら治療を受けているがん患者の推計データを厚生労働省が初めてまとめ、全国に32.5万人いることが公表されました(「平成22年国民生活基礎調査」を基に同省健康局にて特別集計したもの)。これは、日本の労働人口の約0.5%にあたります。男性が14.4万人、女性が18.1万人で、女性の方が多く、年代別でみると、男性は60代が全体の約4割を占め、50代、70歳以上と続きます。女性は50代が最多で、40代、60代の順でした。

 

 図1は、がん経験者の今後の就労(継続)意向と仕事をしたい理由を調査した結果です。仕事を続けたいという意欲を持っている人が多く、働くことは生活基盤であるとともに、「生きがい」という人生の糧でもあることがわかります。私は、平成20年から、医療機関やがん患者支援団体と連携・協働して、仕事や経済的な問題を抱えるがん患者さんやそのご家族の就労支援に携わってきました。就労支援とはがん患者が不本意に仕事を失うことなく、一人ひとりにとっての「働きたい」という思いや「働く意味」を実現するための支援であると考えています。

 

2.企業が抱える課題

 企業が治療と職業生活の両立に取り組むうえで、どのようなことが課題となっているのでしょうか。図2を見てみましょう。従業員規模によらず共通しているのは、「代替要員の確保」「病気そのものや治療の内容、仕事への影響が分からない」という課題です。また、従業員が50人未満の企業では「休業中の賃金支給等の金銭的な補償」や「長期間働けない従業員の社会保険料の事業主負担」など経済的な負担をあげています。

 

 実は、どれも一筋縄ではいかないものばかりです。とはいえ、目の前の従業員ががんの診断を受けたとしたら、企業としてどのような対応をしたらよいのでしょうか。

3.両立支援の捉え方

 皆様の企業では、従業員全員が何ら問題なく勤務できていますでしょうか。自身の病気や家族の看護・介護、育児など、仕事に制約を与える事柄が生じて、悩んでいる従業員はいませんか。がん患者が働きやすい企業は誰にとっても働きやすい職場といえます。制約を抱える従業員を排除するのではなく、人を活かし、人が活かされる職場は、企業と従業員の信頼関係を醸成し、双方に大きなメリットをもたらしてくれるはずです。

 1年ほど前になりますが、企業の人事担当者や産業保健スタッフの方に向けたがん患者就労支援セミナーでの参加者の方の感想をご紹介いたします。
 「がんと就労」というテーマは、職場環境の問題と思えました。精神疾患も、がんであっても、伝えなければ上司や同僚など周囲にはわからない。伝えた時に伝えられた側の配慮、支援が整っていれば、どちらの立場にとっても、働きやすい環境になるのではないかと思えました。

 がんという病気はほとんどのケースで私傷病です。「私傷病=他人ごと」ではなく、「がんと就労=人事ごと(自分ごと)」として捉えることがスタートラインです。企業としてどのように取り組んでいけばよいか、事例も踏まえお伝えしていきたいと思います。

 

プロフィール

ms kondo
近藤社会保険労務士事務所 代表(http://www.kondo-sr.biz
特定社会保険労務士/キャリアコンサルタント 近藤 明美 
明治大学文学部卒業後、企業の総務人事職に従事。法律事務所勤務を経て、2008年9月近藤社会保険労務士事務所開業。2009年よりがん患者の就労支援に携わり、がん経験を持つ社会保険労務士として、働く世代のがん患者の就労・経済問題に取り組んでいる。2011年3月一般社団法人CSRプロジェクト副代表理事就任、2013年7月NPO法人がんと暮らしを考える会理事に就任。現在、三井記念病院、東京医科歯科大学病院などで相談員を務めるとともに、がん患者就労支援のための企業内研修用教材作成(東京都)に携わるなど企業におけるがん患者支援にも取り組んでいる。

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