HOME 専門家の知恵 就業規則・労務問題 【専門家の知恵】安全衛生対策で投資機会と労働損失回避を

【専門家の知恵】安全衛生対策で投資機会と労働損失回避を

<労働安全コンサルタント 野間 義広>

「第14次労働災害防止計画に向けた論点(厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課)」によりますと、災害防止等を進めるためには、安全衛生対策に必ずしも関心が高くなく、取組の遅れている中小企業、第3次産業の事業者に対して、単に法令等の内容を説明した取組を求めるだけでな く、安全衛生対策に取り組むことが事業者にとって経営面や人材確保の観点からもプラスとなることを説明するなど、安全衛生対策の実施を促す取組が不可欠であると提唱しています。

 そのポイントは以下のとおりです。

①安全衛生対策と「SDGs」との関係

②労働災害時の損失

「第14次労働災害防止計画に向けた論点(厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課)」より引用

◆安全衛生対策と「SDGs」との関係

 安全衛生対策と社会的要請である「SDGs」とは、切っても切れない関係にあります。「SDGs」は「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、17の目標と169のターゲット達成により、「誰一人取り残さない」社会の実現に向け、途上国及び先進国で取り組むものです。

 ここで、SDGsのうち安全衛生対策と関係の深いものをいくつか挙げてみましょう。

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「持続可能な開発目標(一部抜粋)」

・目標3「全ての人に健康と福祉を」

 あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する3.6 2020年までに世界の道路交通事故による死傷者を半減させる3.9 2030 年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。

・目標6「安全な水とトイレを世界中に」

 すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する6.3 2030 年までに、汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物質や物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加させることにより、水質を改善する。

・目標8「働きがいも経済成長も」

 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する。8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならび同一価値の労働についての同一賃金を達成する。8.8移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。

・目標12「つくる責任つかう責任」

 持続可能な生産消費形態を確保する12.4 2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物資やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。

◆労働災害時の損失

 労働者の安全衛生対策の推進は、災害が生じた場合の労働損失等を考慮すれば、自社の経営にも大きく影響するといえるほか、自社内の問題に留まらず、取引先や社会からの要請としてその実施が求められつつあります。

 ここで、労働損失の試算データと、過去の損失例を見てみましょう。

・「労働損失の試算」

 令和3年のすべての労働者死傷病報告から休業見込み日数のみを積算したとしても全産業で約1,200万日の休業見込み(試算)となります。これは、年間(240日)約5万人の労働が失われたことに相当します(表1 参照)。

表1

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  また、2021年12月に公益財団法人日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較2021」における日本の時間当たり労働生産性の49.5ドル(5,086円)より換算すると約46億ドル(約4820億円)の損失に相当します。なお、上記は、被災者の労働生産性喪失のみの損失であり、実際は、訴訟、物損等の補填や営業関連損失等による損失も加わると考えられます(表2 参照)。

表2

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 持続可能な発展を掲げ、労働損失リスクを避けるには、労働者が健康で安全に働き続けることを第一としなければならないことは言うまでもありません。                                  以上

 

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野間 義広(のま よしひろ)   
労働安全コンサルタント(化−第591号) 

製造業や建設業などにおける危険有害作業経験と管理経験を併せ持ち、歯に衣着せぬコンサルティングで多方面から信頼を得ている安全衛生専門家。安全診断業務のほか、衛生推進者養成講習や各種特別教育などの安全衛生教育講師、業務支援コンテンツ制作やVR教育の普及に取り組んでいる。日本労働安全衛生コンサルタント会会員。 

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感染症は、我々人間の体内に侵入した病原微生物(ウイルス、細菌、カビ、原虫など)が定着、増殖することで起こる。従って、常に感染のリスクに晒されていると認識しなければならない。特に、環境破壊に伴って生態系を含む生物多様性が急速に劣化し、人間社会に跳ね返ってきているとも言われている。ウイルスの本来の生息地を我々人間が壊してきた結果だとも言えよう。これからも、ウイルス起源のパンデミックを覚悟しておかねばならない。ウイルスと闘って勝負を競う発想を止め、自然界での共生をコンセンサスとしなければならないだろう。
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