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【専門家の知恵】労働災害の増加とその要因

<労働安全コンサルタント 野間 義広>

 「労働災害」は、様々な要因が絡み合って発生するものですが、先日発表された第14次労働災害防止計画に向けた論点(厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課)によりますと、労働災害の現状と災害の内容や各種経済指標から推察される増加要因は以下のとおりとなります。 

①作業行動に起因する災害(転倒・腰痛等)が増加していること。

②高年齢労働者が増加していること(より一層の安全配慮が必要+休業長期化)。

③中小事業者・第3次産業における安全衛生対策が不十分であること。

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 「第14次労働災害防止計画に向けた論点(厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課)」より引用

 

作業行動に起因する災害の状況

 作業行動に起因する災害、いわゆる”行動災害”とは、視野の死角にある段差での転倒や、重量物運搬時の無理な動作による腰痛などを言います。「転倒」は23%、「動作の反動、無理な動作(腰痛等)」は14%を占め、作業行動に起因する災害が労働災害全体の約4割を占めています。

 また、高齢労働者(60歳以上の労働者)の割合が増加した影響により、死傷者数が増加しており(平成29年比28.5%増)、さらに第3次産業とりわけ中小事業者の安全衛生対策の取組の遅れも重なって、全ての業種で労働者数30人未満の事業場において労働災害が多くなっています。

 このような現状にもかかわらず、中小事業場の安全衛生教育やリスクアセスメント(未然予防措置)の実施率は他の規模の事業場に比べて低いままです。また、第3次産業の災害は全産業の5割以上を占めており、特に、小売業や社会福祉施設における増加が著しくなっています。第3次産業の事業場においてもまた、安全衛生教育やリスクアセスメントの実施率は他の業種に比べて低いのが現状です。

多様な働き方、外国人労働者の増加

 個人事業者や兼業、副業等働き方の多様化が進んでおり、また、外国人労働者が増加するにつれて労働災害も増加傾向にあります。令和3年の外国人労働者の死傷者数は、5715人です。

重点業種等における労働災害発生状況

 ”重点業種”とは「建設業、製造業、林業」を指し、その死亡者数は減少傾向にあります。しかしながら建設業、製造業において令和3年は前年より増加しました。なお、いずれの業種でも事業者規模別にみると労働者数10人~29人の規模の事業者が最も多い状況です。

 また、陸上貨物運送業の死傷災害を事故の型別でみると「墜落・転落」が最も多く、「転倒」「動作の反動・無理な動作」が増加しています。

 第三次産業(小売業など)では、労働災害が増加しており、このうち「転倒」や「動作の反動・無理な動作」で増加しています。

職場における労働者の健康状態等

 日本の労働人口の約3人に1人が働きながら通院しています。一般定期健康診断の有所見率は50%を超え、疾病リスクを抱える労働者は増加傾向です。また、疾病を抱える労働者が離職する時期の8割以上が治療開始後となっています。

 一方で、傷病(がん、糖尿病等の私傷病)を抱えた何らかの配慮を必要とする労働者に対して、治療と仕事を両立できるような取組(相談窓口等の明確化、両立支援に関する制度の整備等)がある事業所の割合は41.1%(令和3年度労働安全衛生調査(実態調査))に留まっています。 

 現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は、53.3%となっており、精神障害等の労災補償認定件数は、増加傾向にあり、令和3年は629件となりました。

 一方、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場も30人以上の事業場では増加傾向にあるものの、特に労働者数30人未満の事業場(小規模事業場)において、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場が増加しておらず、むしろ減少傾向がみられています。なお、脳・心臓疾患の労災補償認定件数は減少傾向にあるものの、いまだ170件を超えています。

化学物質等を起因物とする労働災害の状況等

 化学物質(有害物)を起因物とする労働災害が年間約400件発生し、化学物質による疾病が年間約250件発生しており、減少がみられません。

 特化則等の個別規制の対象外となっている物質による労働災害が、化学物質による労働災害全体の8割を占めており、個別規制対象外の危険性又は有害性等を有する化学物質に対する自律的管理の定着が必要です。

 また、製造業のみならず、建設業、第三次産業における災害も多くみられます。さらに、石綿使用建築物の解体は2030年頃がピークを迎えることから、更なる石綿ばく露防止対策の確保推進が必要です。なお、じん肺所見が認められる労働者は減少していますが、粉じん作業労働者数は増加しています。                   

                                               以上

 

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野間 義広(のま よしひろ)   
労働安全コンサルタント(化−第591号) 

製造業や建設業などにおける危険有害作業経験と管理経験を併せ持ち、歯に衣着せぬコンサルティングで多方面から信頼を得ている安全衛生専門家。安全診断業務のほか、衛生推進者養成講習や各種特別教育などの安全衛生教育講師、業務支援コンテンツ制作やVR教育の普及に取り組んでいる。日本労働安全衛生コンサルタント会会員。 

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感染症は、我々人間の体内に侵入した病原微生物(ウイルス、細菌、カビ、原虫など)が定着、増殖することで起こる。従って、常に感染のリスクに晒されていると認識しなければならない。特に、環境破壊に伴って生態系を含む生物多様性が急速に劣化し、人間社会に跳ね返ってきているとも言われている。ウイルスの本来の生息地を我々人間が壊してきた結果だとも言えよう。これからも、ウイルス起源のパンデミックを覚悟しておかねばならない。ウイルスと闘って勝負を競う発想を止め、自然界での共生をコンセンサスとしなければならないだろう。
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